大判例

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高松高等裁判所 事件番号不詳〔2〕 判決

主文

原判決を取消す。

被控訴人秋山村農地委員会が昭和二十三年七月三十日高知県吾川郡秋山村甲殿百七十六番田四畝十七歩につき訴外関留吉のため与えた賃貸借契約締結の承認及び賃借権の設定の裁定は之を取消す。

被控訴人高知県農地委員会がこの裁定に対する控訴人の訴願を昭和二十三年九月二十八日却下した裁決は之を取消す。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。

事実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め被控訴代理人等はいずれも控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は原判決事実摘示と同一であるから茲に之を引用する。

(立証省略)

理由

被控訴秋山農地委員会が訴外関留吉の申請に基き昭和二十三年七月三十日同訴外人のため高知県吾川郡秋山村甲殿百七十六番田四畝十七歩につき賃貸借契約の承諾及賃借権設定の裁定をしたこと、この裁定に対する控訴人の訴願につき被控訴県農地委員会が同年九月二十八日これを却下する旨の裁決をしたことは当事者間に争がない。而して控訴人がかつて右訴外関留吉に対し本件農地を賃貸していたことは控訴人の自認するところでありまた成立に争ない甲第一号証に原審証人末松民衞、同野本英材、同野本誠子、同関幸吉郞当審証人土居増一、同吉良義夫、同岩田需の各証言を綜合すると控訴人は昭和二十年九月頃自作の為めその当時の賃借人である訴外関幸吉に対し賃貸借解除の申入をしたのに対し、同人はこれを承諾し翌二十一年の秋の稻作収穫後返地することを約し耕作移動届書にも捺印し、同年九月末本件農地は円満に控訴人に返地され爾来控訴人において自作していること、右関留吉はその返還と同時にこれを理由として従来同人が別に関与吉郞に賃貸していた田七畝十二歩の返還を受けたこと等が認められる。被控訴人が昭和二十一年十一月訴外関留吉から本件農地を不当に取上げたものであると主張し、原審並当審証人関留吉当審証人関猛猪はそのような趣旨に証言するけれども原審証人末松民衞の証言対に比して之を信用しない。その他前認定を覆すに足る証拠はない。して見ると控訴人が本件農地を訴外関幸吉郞から不当に取上げたものでないことが認められる。よつて被控訴人等の本件主張は到底採用できない。被控訴人等は本件農地に関する合意解除は控訴人の飯米確保を目的とするもので公序良俗に反し無効であると主張するから此の点につき按ずるに控訴人が本件農地の返還を受けたのは自作のためであることはさきに認定したとおりであつて仮に被控訴人等主張のように飯米確保の目的もあつたとしても返地にかような目的があつた一事だけではその契約の解除を公序良俗に反するものとはいえない。而して右解除は前認定のように昭和二十一年九月にその効力が生じたものと解すべきであるから、右解除が適法且つ正当であるかどうかにつき検討せんに、原審並当審証人野本英材原審証人野本誠子同末松民衞当審証人吉良義夫の各証言によれば、控訴人は専業農家で家族八名を擁し本件農地を含み田二段六畝畑五反三畝(内二反は果樹園)につき牛頭を飼育し、農具を整備してその長男英材外三名の家族と農耕に従事して居り(殊に長男は農業学校を卒業している)その経営能力施設等に欠くるところがないことが認められ、他に右認定を覆すに足る証拠がない。一方訴外関留吉も専業農家であるが、その家族は十一名であつて田畑合わせて九反六畝につき馬一頭を飼育し、農具も完備しそのうち家旅五名で農耕に従事していることは原審証人野本英材当審証人山淵正義の各証言によつて認められる。(尤も右農地のうち昭和二十一年十二月の南海地震の塩害地、湿田が各一反余づつあることは原審証人関留吉当審証人山淵正義の各証言により肯定できるけれども当審証人関与吉郞同土居増一の各証言によると右塩害地、湿田は逐次改良せられて半作乃至平年作程度に収穫が上昇したことが推認される。之に反する原審証人関留吉の各証言は措信しない)以上の控訴人の経営能力並びにその増産意慾等に徴すれば控訴人において本件農地を耕作することによつてその生産は増大することが期待されても減少するものとは考えられない。更に賃借人たる関留吉の生活の維持の点について考えるに、同人の家族は前述のように十一名であるけれども、前認定の耕作面積、経営能力等に当審証人関与吉郞の証言により明かな関留吉が関与吉郞から返還を受けた農地その他合わせて一反三畝歩に砂糖黍を植えていること等より推すときは、本件農地を控訴人に返還しても同人の生活の維持に困難を来すものとは認められない。右認定に反する当審証人関猛猪の証言は信用せず他に右認定を動かすに足る証拠はない。なお控訴人の昭和二十二年度における所得税額が六万円余であつたことは当審における控訴人本人の尋問の結果によつて明かであり、原審証人関留吉の証言によれば右留吉のそれが七千五百円であつたことが認められその間に大差があることが明白であるけれども右納税額の多寡は直ちに右契約解除の適法性乃至正当性を左右する資料とはならない。果して然らば右契約解除は適法且正当なものと言わなければならない。しかのみならず前認定のように関留吉は円満に合意解除をして本件農地を控訴人に返還した際、他面これを理由として自己が関与吉郞に賃貸借していた田七畝十二歩の返還方を同人に請求し同人からその返還を受けながら更に被控訴秋山村農地委員会に対し、さきに一旦控訴人に合意返還した農地につき賃貸借契約締結の承認及賃借権設定を申請するが如きは信義に反するものと言わざるを得ない。而して控訴人が本件農地の所有者であることは、被控訴人等の明かに争わないところであり、原審証人野本英材、原審証人野本誠子、同末松民衞、同関幸吉郞、当審証人土居増一、同吉良義夫同岩田需の各証言を綜合すれば控訴人が本件農地を失うことによつて生活状態が悪くなることが推認できるから被控訴人等の本件処分は違法と云わなければならない。よつて控訴人の本件請求は正当であつて之を認容すべきに拘らず之を棄却した原判決は失当であるから、本件控訴は理由ありと認め民事訴訟法第三百八十六条第八十九条第九十六条を適用し、主文のとおり判決する。(昭和二四年一一月二四日高松高等裁判所民事部)

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